あなたが語ってくれたこと「移住者の声」より

詩・神原将


年収を1000万円捨てた。
2ヶ月だけ住んだ新築の一戸建てを捨てた。
雑誌に毎月載るような人気のパン屋を3店舗捨てた。
7年かけて開拓して夫婦の夢だったチーズを作る牧場を捨てた。
豊かな山と川が近くにあって地域の年配者らと交わりながら幼児を育てる、こだわりの保育所を開園2週間前に捨てた。
夫婦二人三脚でやってきた二代目を継いだ美容室を捨てた。
いくつもの難儀な仕事を一緒に乗り越えてきたスタッフたちを捨てた。
全国大会で優勝したソフトボールのチームメイトを捨てた。
最後まで避難に反対した病気ひとつせず家族のために働いてきた夫を捨てた。
放射能が怖いなら子ども生まなければいいじゃんと言った妻を捨てた。
お前だけは健康でいて欲しいと言って送り出してくれた大好きな両親を捨てた。
家族同然で暮らしてきたペットを捨てた。


僕らは「放射能不安症」と呼ばれて、マスクをしていると気にしすぎだよと苦笑いされる。産地を確かめ、安心できる料理を用意しようとすると、「風評被害で困るんだよ」と罵られる。
僕らは傷つきながら、子どもの手を引いて避難をした。僕らは泣きながら一人で暮らす新しい家の玄関に、ただいまと声をかける。大丈夫だよと、毎晩寝る前に自分に言い聞かせる。
友だち以上に思えたあの人や、あの人や、あの人の態度が、よそよそしくなったことに気がついて、原発のばかやろう!と叫びたくなる。

おかしな国だよと、毎日ため息をつくのが癖になった。
両手に抱えられるだけの幸せがあればいいやと自分を励ます。

ありがとうと、素直に感謝を口に出せるようになった。

311母子避難、家族移住者たち。

たしかに今、ここに僕らは生きている。
例えテレビが話題にしなくても、僕らはここで声をあげ続ける。
お気に入りの家や、大好きな家族や、大切な仲間たちに届いて欲しいと声をあげる。
みんなでこの国の上で生きたい。
あなたと生きたい。

「さんいちいち」から僕らは

詩・神原将

さんいちいちの僕らは、一体どこに消えてしまったんだろう。

あの日、見ていた風景は、もう今となっては少しも思い出せない。

あの日も、確かに希望を抱いていたはずだったのに。

きみの体からほのかに漂う、お風呂上がりの香りは今はない。

さんいちいちから僕らは、見たことのない風景の中にいる。

あの日から手探りで歩く道程の、苦悩と郷愁につまづきながら、

明日の小さな幸せを願って、それでも歩き続ける。

この町の、一時間一本のバスの暮らしにも慣れてきたんだ。


さんいちいちから僕らは、

何処まで行けばあの日に帰れるのだろう。

さんいちいちから僕らは、

止まったままの風景のなかにいる。

さんいちいちから僕らは、

泥だらけの靴を脱いで、やっと新しい靴を履いた。

さんいちいちから僕らは、

もう一度、家族になる。